「ChatGPTは使っている」の次にやると効くこと —— 社内の型をAIに毎回渡す仕組み

ノートパソコンで社内ルールのドキュメントを一緒に見ながら、AIへの渡し方を確認している場面

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「うちもChatGPTは使っている」——ここ1年、経営者の方と話していて、この一言をいちばん多く聞くようになりました。

数年前なら「AIって、うちに関係あるの?」でしたから、変化は大きいです。ただ、その次に必ず出てくるのが、「使っているんだけど、正直、思ったほど楽になっていない」という言葉です。

私はこのブログをAIに書かせて毎晩1本、翌朝9時に公開する仕組みで運用しています。その仕組みを作る過程で、「使っている」と「効いている」の間には明確な段差があるということを、自分の会社でも痛いほど確かめました。

今日はその段差の話と、そこを越えるために何をやると効いたのか、逆に何をやって失敗したのかを、そのまま書きます。

ノートパソコンで社内ルールのドキュメントを一緒に見ながら、AIへの渡し方を確認している場面

1. なぜ「使っている」で止まる会社が多いのか

まず現在地の数字から確認します。

中小企業基盤整備機構が2026年3月に公表した調査によると、中小企業でAIを導入している割合は20.4%(全社的3.6%+一部業務16.8%)、検討中が18.6%です(中小企業のAI活用実態調査 — 中小機構)。

中小企業のAI導入率は20.4%(中小機構2026年3月公表)。ただし導入と定着は別で、2026年は定着が問われるフェーズに入った

数字の伸び方を見ると、「導入」までは進んできた会社が確実に増えています。ただ、問題はその次に起きています。

2026年に入ってから、業界のガイドや調査記事では「導入」と「定着」は別物という指摘が目立つようになりました。導入は「ChatGPTを契約して社員が使える状態にする」こと。定着は「社員が毎日の業務のなかで自然にAIを使い、それが当たり前になっている」ことを指します(生成AIを定着させる方法とは — JAPAN AI、中小企業の生成AI定着完全ガイド — BoostX)。

「ChatGPTを試したけど、結局誰も使わなくなった」——2025年以降、中小企業でこの声が急増しているとも報告されています(生成AIを使いこなす中小企業と使えない会社の差 — Anomaly)。

導入は済んだ。でも定着はしていない。ここが、今の中小企業の共通の踊り場です。

2. 「使っている」と「効いている」を分けているもの

私が自分の会社でAIを毎日動かしていて、いちばん強く感じているのはこの点です。

AIが効いてこない一番の理由は、毎回ゼロから頼んでいるから、です。

聞こえは当たり前ですが、実際の現場を見るとほぼこうなっています。担当者が思いついたときにChatGPTを開き、その場で「これ書いて」「これ要約して」と一発の依頼を投げる。出てきたものを手直しして使う。その依頼の内容は誰の手元にも残らない——だから次の週、同じ内容を頼むときは、また別の担当者がゼロから書き直す。

会社が毎回スタート地点に戻ってしまう構造です。これが続くと、AIを何回使っても社内に何も積み上がらない。使っている人は「ちょっと便利」で終わり、使っていない人は「面倒そう」で終わる。両方から「効いていない」と言われる、というのが定着していない会社の典型です。

3. 効いてきたのは「社内の型を、毎回AIに渡す」に切り替えたとき

私の会社で切り替えたのは、この一点でした。

その都度AIに指示するのではなく、うちの型(ルール・書式・NG集・言い回しの好み)を1つのドキュメントに書き溜めて、AIに仕事を頼むときは必ずそれを一緒に渡す。

机の上に社内ルールを書き出した付箋を色分けして並べた俯瞰イメージ

具体的にドキュメントに書いているのは、たとえばこういうものです。

  • あいさつ文の型、見出しの順番、段落の長さの好み
  • 使ってよい表現・使ってはいけない表現(建設業向けだと「派遣」「常駐」は書かない、といった業務判断も)
  • 数字を書くときの出典の付け方
  • 相手ごとの敬語のトーン
  • 断り方の言い回し
  • よくある質問と、それに対するうちの答え方

このドキュメントは、月に何度も書き足しています。「あ、ここはこう書きたかった」と気づいたら、その場で追記する。AIの出力を直したら、その直した理由もドキュメントに反映する。すると、次からAIは同じ間違いをしなくなります。

これは新しい発想ではなく、業界の解説記事でも「社内で過去に使ったドキュメントやレポートを例として与えると、組織固有の言語トーンや形式を反映した出力が得られる」という書き方で紹介されている定石です(ChatGPTプロンプトテンプレート完全ガイド — AI総合研究所)。

ただ、「聞いたことはある」と「毎日回している」の間には、また段差があります。私の会社でも、この仕組みを回してみるまでは「なんとなく良さそう」で終わっていました。

4. 失敗した話 —— ルールが陳腐化して、仕組みが8晩止まった

いいことばかり書いても信用ならないので、この方式で私が実際にやらかした失敗も書きます。

このブログを回している仕組みには、「次に書く記事はこれ」という目印をルールのドキュメントに書き込んでおく仕掛けが、当初ありました。目印を頼りにAIが毎晩「次に書く記事」を選び、書き上げて予約投稿する、という流れです。

うまくいっていたのは最初だけでした。目印は、記事を書き上げたら次の記事に付け替える必要があります。ところが、あるとき目印を付け替え忘れたまま数日放置してしまったのです。

すると、AIは毎晩ちゃんと動きにきて、目印の指す記事を見て「これはもう公開済みだから書く必要がない」と判断して、静かに終わっていました。ログには「該当なし」とだけ書いてあり、私が翌朝それを見るまで、8晩連続で1本も記事が書かれていなかったことに気づけなかったのです。

翌朝、仕組みが動いていなかったことに気づく画面のマクロ接写

これはAIが賢くないから起きたことではありません。むしろAIはルールに正確に従っていました。ルールの側が現実からずれていたのに、それを検知する仕組みが入っていなかった、というのが本当の原因です。

2026年7月27日にこの目印方式は廃止し、「予定日がいちばん近い記事から順に書く」という放っておいても陳腐化しない基準に置き換えました。以降、同じ理由で止まっていません。

学びはひとつです。AIに社内の型を持たせる仕組みは、ルールを書いたら終わりではない。ルールが古くなっていないか、ルールが現実とずれていないかを、定期的に人が見に行く運転席が必ずセットで要ります。

5. どこから始めるか(3つの手順)

「うちもやってみたい」と思ったときに、いきなり分厚いドキュメントを書こうとすると挫折します。私が実際に効いたのは、次の順番でした。

AIに渡すルール文書を、手元のメモを見ながら書き足している場面

手順1: 直近3ヶ月で「同じ質問をAIに何度もした業務」を1つだけ選ぶ

新規で仕組みを作るのではなく、すでにAIに何度も頼んでいる業務を選ぶ。ここに「毎回ゼロから頼み直している」ムダが必ず溜まっています。営業メールの返信、議事録の要約、問い合わせフォームへの一次回答——このあたりが最初の候補になりやすいです。

手順2: その業務の「うちの型」を、A4半分に書き出す

長く書かなくていいです。A4半分に収まる量で、次の3つだけ書きます。

  • この業務で守ってほしい形式(並び順・見出し・長さ)
  • この業務で使ってはいけない表現(社名の誤字防止・業界用語の使い分け)
  • 判断に迷ったときに人に戻すサイン(金額・固有名詞・法律に関わる話は必ず人に確認)

これが「社内の型」の最小単位です。分厚く作ろうとすると更新が止まるので、最初は必ず薄く始めます。

手順3: AIに仕事を頼むたびに、必ずこのA4を一緒に渡す

ここが定石を外しやすいところです。ChatGPTでも、Claudeでも、Geminiでも、新しい会話を始めたら毎回、この型を最初に読ませてから業務の指示を出す。「一度覚えたはず」と思って省略した瞬間から、AIはまた素の状態に戻ります。

Skills機能(保存したプロンプトを呼び出す機能)が使えるプランなら、その型をSkills化して、業務ごとに呼び出すのが実務的です(ChatGPTプロンプトテンプレート完全ガイド — AI総合研究所)。使えないプランでも、そのA4をコピペするだけで十分に効きます。手間はほんの数秒です。

この3手順の目的は「立派な仕組みを作ること」ではなく、「毎回ゼロから頼む」の状態から会社を1歩ずらすことです。1歩ずれるだけで、社内に何かが積み上がり始めます。

6. AIに「判断」まで任せない一線を、最初に決めておく

もう1つだけ、これから仕組みを作る方に伝えておきたいことがあります。

社内の型をAIに渡すと、AIの出力はどんどん自社らしくなります。すると、AIが最終判断まで下してしまう場面が出てきます。金額の提示、契約条件の返答、外部への公式コメント——このあたりでAIが「うちの型どおり」に返してしまうと、その返信を止められる人が誰もいなくなります。

2026年3月31日に更新されたAI事業者ガイドライン 第1.2版では、AIエージェントのような自律的に動く仕組みを業務に入れる際に、「重大な影響が生じ得る場面で、人間が判断を介在させる仕組みを社内ルールに反映すること」が明記されました(AI事業者ガイドライン第1.2版について — 経済産業省)。

これは大企業だけの話ではありません。「うちの型」を書くときに、そこに1行だけでも「ここから先はAIに任せず必ず人が返す」という線を入れておく——それだけで、後から仕組みが暴走する確率がぐっと下がります。

前回の記事「AIに任せて事故りかけた話」で書いた、自分の名前を3回も誤字で公開してしまった件も、遡ればここに該当します。数字と固有名詞は、AIがどれだけ「うちの型」を覚えたとしても、最後は人が確認する——この線は動かさない方が無難です。

7. まとめ

「ChatGPTは使っている」の次にやると効くのは、社内の型を1枚のドキュメントに書き、AIに仕事を頼むたびに必ず一緒に渡すことです。

  • 「導入」と「定着」の間の踊り場に、多くの中小企業が今います
  • 効いてこない一番の理由は、毎回ゼロから頼んでいる構造にあります
  • うちの型をA4半分に書き、毎回AIに渡すだけで、社内に少しずつ積み上がる状態に変わります
  • ただし、ルールが陳腐化しても検知できる仕組みをセットで作ること(私は8晩気づけずに落としました)
  • 数字・固有名詞・金額など、人が最後に見る線は最初に決めておくこと

御縁では、「うちも次の一手を打ちたい」というご相談をいただいたときに、まずこのA4半分から一緒に書き起こすところをお手伝いしています。分厚い研修や高価なツールから入る前に、この1枚だけでも試してみると、感触が変わるはずです。

Masaharu Ishimoto

この記事を書いた人

Masaharu Ishimoto(御縁 GROWTH)

AIエキスパート / 現場実務22年

22年間ずっと現場側で実務をしてきた人間が、いまはAIエージェントを毎日の業務に組み込んで運用しています。うまくいったことも、任せて失敗したことも、そのまま書いています。

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